『本物の価値を大切にする時代』

「若者の最大の課題は、現状をいかに維持するか」

”将来の見通しが明るくない中で、どう生活水準を守るか。
政策など他者に要求するのではなく、まずは社会にあわせて

自分自身を変えていく。そんな姿が浮かび上がる。”

朝日新聞(ソーシャルA)に目を引くタイトルがありました。
”希望は「安定」 統計から見る若者像”

15~29歳の60%が、「幸福感」を判断する時に

「友人関係」を重視しており、全世代平均で40%を切る中で

突出しています。

(内閣府の国民生活選好度調査(平成22年度)より)

ちなみにこの「幸福感」の判断、女性は40代から、男性は50代

後半から、「自分の健康」を一番重視


以前出会った20代の男性は、私にこう言いました。
「僕たちは生まれた時から、世の中が暗かったんです」

 1986年12月から1991年2月までの頃、実体経済から乖離して、

資産価格が一時的に大幅に高騰、その後急速に資産価格の

下落が起こった異常さ。

それこそが中身のない泡が膨れて弾ける様子に例えられた

「バブル景気」でした。


それ以前1985年のプラザ合意の直後は円高不況と称された

深刻な不況にありました。

輸出産業が大打撃を受け、東京や大阪などの町工場で

倒産が続出していた時代。


当時の日本のGDPに占める製造業比率は高く、円高が輸出産業、

強いては日本経済に与えたダメージは現在と比較にならないほど

大きく、製造業の海外流出もこの時期に本格化しました。


バブル景気の実態は、資産価格の高騰による好景気というもので

あり、株式や土地を持つ一部の者にのみ恩恵がもたらされたもの

でした。

しかし、資産をもたない多くの者には恩恵が来ず
バブル景気とは無縁。

その頃私は大学を卒業してSEの仕事をしており、
銀行保険業のいくつかの企業の不動産管理のシステム

携わっていました。

そして仕事を通して金融マンたちの「お金」に対する異常な感覚

驚き、正直辟易して、このおかしな世の中がいつまでも続くわけが

ないと感じていました。


まともな者であれば誰もが同様に思ったことでしょう。
そして予想通り、バブルは弾け飛びました。

1992年、宮沢首相(当時)が公的資金投入による早期の不良債権

処理を言及しますが、官庁、マスコミ、経済団体、金融機関など

からの強い反対に遭い、実行に至りませんでした。 


そしてバブル崩壊と同時に1973年より続いてきた安定成長期は

終焉を迎え、その後10年以上に亘る長期不況(失われた10年)

へと続きます。

現在の若者たちが成長してきたのは、このようなネガティブな

時代。そしてその社会は、私たち大人が作ってきたもの。

若者たちは、社会で苦しみつつも自分の価値観を持つことを

大切にし、足元のつながりを感じられる他者との関係を築いて

頑張っていこうとしているように見えます。


立田博司さん(株式会社ポートフォリア代表)
は、
『イマドキの若者こそ「本物の価値」を理解している』と言います。

”先入観や偏見を持たずに彼らの考えを聞いてみると、

実はしっかりとした価値観を持った世代だと分かります。 

クルマをはじめとしたモノを買わない(でも電機製品は

しっかり買っているようです)、

ブランド品に関心がなく 、エコやレトロ、中古や手作りが

好きで、休日は旅行や遠出をするよりも自宅の周辺で友人や

家族と過ごす。

今を楽しむよりも、将来に備えて貯蓄をするといった

特徴によって語られる「草食系男子」は、商業的にあまり

好ましくないとか、覇気や上昇志向がない、安定志向で

小さくまとまっているなどと、ネガティブに捉えられること

が多いようです。


一方で、環境の変化を見極めたうえで、自分にとって

何が本物で何をなすべきかをしっかりと考え、

上滑りではない本質的な人間関係や社会のあり方を

求めているという側面もあります。


実はこの世代・人たちこそ、私が21世紀の価値観だと

考えている「目に見えない本物の価値」を理解している

のではないかと思います。”

 
以前、照隅会でゲスト講演された高野登さんは、
「日本人が本来持っていた美徳を取り戻すことがこれから

は大切」と説かれました。「目に見えない本物の価値」


あまりに合理的で効率主義的な考え方やモノの大量生産・

大量消費、社会の近代化や科学技術の発達といった

「近代工業社会」を規定してきた20世紀型の価値観


その価値観が、豊かで幸せな社会を生み出してこなかった

のではないかという疑問と共に、「近代工業社会」が

成熟期を迎えたことと無縁ではないように思えるという、

立田さんのお話には大きく肯けます。

 
団塊・団塊ジュニアという工業社会を象徴するバブル世代・

アナログ世代の人口の塊が、年齢を重ねて主役の座を

明け渡していく中。

これからポスト工業化・本物志向のネット世代へと世代交代

が進むにつれて、長い時間をかけながら、ゆっくりと

でも確実に価値観の変化が進んでいきます。


そのことは、21世紀前半を考えるに当たって念頭に
置いておかなければならない大きなトレンドだと思います。

次代の担い手である子どもや若者たちの逞しい成長を、

私たち大人がいかに支えていけるのか?

とても大切な課題です。

”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”