『物語れる人生を生きる』

「イニシエーションが欠落したまま社会人に
なって問題にぶつかると、思考停止になって
しまう」

(日経ビジネスオンライン掲載「姜尚中氏に聞く
心の力の付け方と漱石の『こころ』」
より)

姜尚中氏(聖学院大学学長)
が以前書いた本
「悩む力」

文豪・夏目漱石や社会学者・マックス・ウェーバー
を題材に「悩むことの意義」を描いています。


仕事、恋愛、家庭、金
・・・。
長い人生、“悩み”は尽きることがありません

常に心を重くする、ネガティブな響きがつきまとう
もの。

姜氏は、悩むことで自分の中の内なる力に目覚める
それこそが、生きる力や創造性につながると言います。

「みなさん、悩むことを不幸の種と考えているよう
だけど、これは不健全なことです。

インターネットを見ても、「なぜあの人がああで私が
こうなのか」「悩みのない人はむかつく、許せない」
など、そういう情念の海が広がっています。

でもね、僕は不健全だと思う。
実はね、悩むことも喜び

そのことに気づかないとね、ダメだと思うんですよ。
やっぱり悩まないと、自分というものが分からないし、
自分にとって大切なものも分からない

今のような悩むことを是としない風潮が、今の閉塞感
を生み出して
いるんじゃないでしょうか。

悩みをくぐり抜けないと、生きる力や思考力、創造的
なアイデアは出てこない

それで、こういう本を書こうと思ったんですね。」

現代社会では、中高年になってひどく働きすぎて
しまった人のメンタルヘルス
が問題になっています。

これは、モラトリアムの時間をたっぷり過ごしていない
せい
ではないかと、姜氏は指摘します。

モラトリアムとは、学生など社会に出て一人前の人間
となる事を猶予されている状態
を指します。


それではイニシエーションとは?

イニシエーションとは、大切な通過儀礼
ことです。本来はここを経ることで初めて人は
変わり、再生
します。

この感覚を今は持ちづらくなっています。

人間は必ず死にます

そして人は家族をたいていは持っているでしょう。
どんなに会社が順風満帆でも、家庭では多くの
アクシデントや不幸
があります。

それは私的な問題だから私的な領域で処理
しなければなりません。

暗黙の死生観が共有されていた時代もかつては
ありましたが、今はそういうものがなくなりつつ
あります。

また、子育ての不安も大きい。
その背景には、人間の精神に関わるイニシエ
ーションが与えられなかった
ことがあると思う
のです。」

モラトリアムの時間を持つよりも、いかに先を
見越して素早く行動を起こすかが求められて
いる現代


グローバル化の時代は、インターネットを通じて
即時的に対応でき、空間的な制約を超えたかの
ようなイメージ
を与えてくれます。

しかしその反面で、ゆっくり自分の来し方を振り
返る時間が持ちにくく
なっています。
そのため、個人の物語をつむぐことが難しい状況
といえます。

さまざまな境界が崩れ、アイデンティティが揺らいで
いく中で、漱石のテーマのように、人間がバラバラ
になって孤独になっている現代



「人間が生きるということは、自分が物語
を作っていくことだと思います。

そうしないと生きて行くことに意味が
見いだせません。

ではどこに自分の物語の拠り所を置くか。

ある人は家族であり、ある人は会社であり、
ある人は地域社会となります。
それらがない人は、国家となります。

しかし、自分の違いを見つけだし、自分の
物語を仮託したいと考えると、多くの人が
国の物語にそれを求めてしまう。

こういった矛盾したものを作り出さないと
グローバル化した世界は前に進めない
のです。

人間はいつ死ぬか分からない。

自分の生きた物語を、他者が確実に
受け取ることで救われるのでは
ないでしょうか」
(姜尚中氏)

だからこそ、人は物語れる人生を「生きる」
ことが大切
になります。

生き方論
を、私たちは漱石から投げかけ
られている
のですね。



”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”