『生成発展する水に学ぶ』

近年、豪雨や台風などによる災害規模が大きくなるばかり。
豪雨が降る度に、土砂災害の被害を多く聞きます。

土砂災害を引き起こす大きな原因の1つはです。
日本は世界の国々の中でも特に雨が多い国で、年間の平均
雨量は約1700ミリ(世界の平均は約970ミリ)
で、その
多さがわかります。

















しかも日本の雨は、1年を通じて平均して降るのではなく、
梅雨や台風、秋雨などの季節に、まとまって大量に降る
という特徴があります。

このため、土砂災害も、梅雨や台風、秋雨の季節に
起きやすいのです。ちなみに平均して年に10個ほど
の台風が上陸
しています。

日本での最近の雨の降り方は、「熱帯モンスーン気候」
見られるスコール状の「ゲリラ雷雨」とか「ゲリラ豪雨」
の様な激しいものが増えているようです。

戦後全国各地で大量に植樹された木が放置されて
貧弱な林により土壌が脆い状態
にある中で、
大雨が降れば土砂が流出します。

その真因は自然をないがしろにしていることにあります。



世界的に見ると温暖化の影響で、洪水などの水災害の
深刻度
が増しています。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によれば、
気候変動の影響で洪水や干ばつなどのリスクが増大する
として、ヒマラヤ山脈の氷河が溶けて巨大化した氷河湖が
決壊し、大洪水
が起こる可能性が高まっている
という警告が出されています。

一方、FAO(国連食糧農業機関)によれば、現在
途上国を中心に12億人の人々が水の不十分な地域に居住し、
近い将来さらに5億人が水不足に直面する恐れがある

といいます。水不足と劣悪な衛生状態の結果、
世界では毎年180万人の乳幼児が亡くなっている

という現実があります。



古の時代、孔子は「水は生成発展する」という
根源的な宇宙観を表しました。

『子 川上に在り。
曰く、逝く者は斯くの如きか。
昼夜を舎かず』


小川環樹氏の説によれば、
水流に物の本質を感じとり、そこから学び
修養に努めることを、水流のやむことのないのと
同じように絶えず行うようにという意

だといいます。

孔子は川の流れの中に、無限に存在する水分子の
力強いエネルギー
を観たのでしょう。



私は昨年、東北大学生態適応センターの国際実習プログラム
ロシア極東・タイガ原生林で行うお手伝いをしました。
http://gema.biology.tohoku.ac.jp/pem_interFields2012.html

その際に、北海道大学・低温科学研究所の白岩孝行先生
からアムール・オホーツクプロジェクトでの研究を通して
得られた「海洋の生態系、なかでも外洋の基礎生産が
大陸から供給される溶存鉄に依存する」
という
貴重なお話を伺うことができました。



『日本の北辺に広がるオホーツク海は、生物生産が
豊かな海として重要な水産資源の供給地となっている。

これまでの観測によれば、オホーツク海は隣り合う
北部北太平洋とは異なり、冬季に深層から供給される
栄養塩の全てが、表層水中で植物プランクトンの生産に
利用し尽されることがわかっている。

北部北太平洋では鉄不足から栄養塩が利用されずに
余り、オホーツク海では全てが利用される。

この違いはどこにあるのだろうか?

我々は、この違いの原因が、アムール川からもたらされる
豊富な「溶存鉄」にあると考えている。

日本国土の約6倍の流域面積をもつアムール川は、
モンゴル高原に源をもち、ロシアと中国の国境を流れて
オホーツク海に注ぐ全長4350kmの大河である。




流域の大部分は、森林または湿地帯である。

鉄は酸化環境では水には溶けないが、湿地帯などの
還元環境では簡単に溶脱する。そのため、アムール川
には大量の鉄が溶出している。

しかし、鉄の多くは、河川水中ですぐに酸化してしまい、
粒子となって再び河床に沈殿する。一方、溶存状態にある
鉄はそのまま海洋まで運ばれ、海洋生物に利用可能となる。

この溶存鉄を、河川から海洋へと運ぶ巧みな仕組みが、
アムール川にはあると考えられる。

森林では落葉した葉が林床に貯まり、徐々に腐植化が進む。
また、湿地でも湿原 植生の腐植化がおこる。

この過程で生産される有機物にフルボ酸がある。

フルボ酸は生産された後、河川へと流出し、水中に溶けた
鉄は、このフルボ酸と結びついてフルボ酸と鉄の錯体となる。
このような鉄は沈殿せず、河川を通じて長距離輸送される
ことがわかっている。

オホーツク海に運ばれる鉄が生物生産にとって貴重なのは、
このフルボ酸鉄がアムール川から多量に供給されているから
であると思われる。そして、このフルボ酸鉄は、アムール川
流域に広がる広大な森林と湿地の賜物なのである。』




アムール川流域では、20世紀以降、急速に土地利用の変化
進みました。最近では大規模な森林火災が極東地域で頻発し、
森林資源が急速に劣化
しています。農地の拡大は湿地の減少
をもたらしています。

アムール川流域とオホーツク海との間の物質循環の
仕組みを解明
されている白岩先生の話を聞いた後に、
実際現場を訪れることで、人間社会を存続してめている地球の
生態系を体感することができました。

尚、私が運営委員として参加している「タイガフォーラム」
では、アムール川の支流、ビキン川流域のタイガ原生林を
先住民の人々やコミュニティなどと持続的に保全していく活動
を進めています。
http://taigaforum.jp/

遥か昔より地球の大地を幾度も潤してきた水は、時に
大きな恩恵を与え、時に無慈悲に災害を起こしてきました。
その度に人間は、水から多くのことを学んできたはずです。

孔子は論語の中でこう説いています。
『子曰く、
 仁に里るを美と為す。
 択びて仁に処らずば、
 いずくんぞ知たるを得ん。』

(人を思いやり、世のため人のために
 生きられるのは美しいことだ。
 そうでなければ、どうして
 知ある人になれるだろうか)


地球の生成期から絶え間なく循環し、生成発展を
繰り返してきた幾億万の水の粒子
に感謝しつつ、
孔子が唱えた「仁(思いやり)」の
大事さを思います。


”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”