『戦わずして勝つは最善なり』

「彼を知り己を知れば百戦殆からず。
彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。
彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し」


(敵と味方の実情を熟知していれば、百回戦っても負けることはない。
敵情を知らないで味方のことだけを知っているのでは、

勝ったり負けたりして勝負がつかず、敵のことも味方のことも

知らなければ必ず負ける)

兵法の中の兵法といわれる「孫子」は、最古にして
最強と言われる兵法書
今から2500年ほど前中国の春秋時代の斉国に生まれ、

呉の国王に仕えた兵法家「孫武」が著したとされています。


「孫武」は斉国王族の1つであった田氏の一族と言われています。
紀元前517年。一族内で大きな反乱が起き、孫武はこれから逃れるため

呉国と向かいます。そして宰相伍子胥から兵法に対する深い理解

認められました。
孫武は伍子胥より王都郊外に土地をもらうと、二年の歳月をかけて

「孫氏兵法書」を著します。


当時、豊富な鉱物資源を有し、中原の覇権争いに介入しつつあった

呉国は、長江下流域を領土としていました。

若き王闔廬は呉の宿敵、楚国を討とうと、広く人材を求めているところ。

楚から亡命し、王から厚い信頼を得ていた伍子胥は、孫武を推挙します。


兵法を治め、王の覇業の助けになる人物であるとして、孫武は客卿(

外国出身の貴族)になり、将軍になります。

後に、呉が楚を滅亡寸前に追い込んだのは、孫武の活躍があったことは

言うまでもありません。

孫子兵法書は、全十三篇に分けられます。

1.「始計」   事前に勝敗を見極める方法
2.「作戦」   勝つための具体的な方法
3.「謀攻」   勝つために必要な環境を作る方法
4.「軍形」   負けないために必要な態勢を作る方法
5.「兵勢」   流れに沿い自然に勝つ方法
6.「虚実」   主導権を握る方法
7.「軍争」   有利な条件を作り出す方法
8.「九変」   千変万化の状況を的確に捉える方法
9.「行軍」   変化の兆候を具体的に見極める方法
10.「地形」  環境を利用する方法
11.「九地」  第4篇から第10篇まとめ
12.「火攻」  正攻法ではないものの利用の仕方
13.「用間」  情報の利用の仕方


たった五千余の言葉から構成されたその内容は、とても充実した深いもの

であり、戦争の規律、哲学、理論、謀略、政治、経済、外交、天文学、

地理学理論、謀略、政治、経済、外交、天文学、地理学など各方面に及ぶもの。


三国志で有名な魏の曹操孫子の注釈書を残し、日本では戦国時代に

武田信玄が孫子の一節から引用した、「風林火山」の旗印を使っていた

ことが有名です。

近代では、アメリカのペンタゴンで研究が行われるなど、洋の東西・時代を超えて、

軍事や組織統率、人間洞察における参考書として重用されてきました。


「孫子曰く、兵は国の大事なり。
死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり。
故に、之を経るに五事を以てし、之を校ぶるに計を以てして、其の情を索む。」 


(戦争は、国家にとって重要な問題であり、避けて通ることはできない。

国民にとっては、生きるか死ぬかが決まる所であり、国家にとっては、

存続するか、滅亡させられるかの分かれ道である。


徹底して研究すべきことであって、決して軽んじてはならない。

したがって、その運営においては5つのポイントを踏まえ、

7つの比較検討項目を研究して、戦況を正しくつかむことが必要となる)

「一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、
五に曰く法。道とは、民をして上と意を同じくせしむる者なり。
故に之と死すべく、之と生く可くして、民は詭わざるなり。

天とは、陰陽、寒暑、時制なり。地とは、遠近、険易、広狭、死生なり。

将とは、智、信、仁、勇、厳なり。

法とは、曲制、官道、主用なり。

凡そ此の五者は、将は聞かざること莫きも、之を知る者
は勝ち、知らざる者は勝たず。」 


(5つのポイントとは、「道」「天」「地」「将」「法」
道とは、民衆の気持ちを国王・将軍の意思に合致させる思想・理念・道理

これによって民衆全てが生死を共にする覚悟を持ち、国王・将軍の意向、

命令に疑念を抱かなくなる。

天とは、陰陽すなわち天地自然の理、季節の変化、寒暖の差であり、

変化への対応が適切であること。

地とは、地理的遠近、地形が険しいか易しいか、戦場の広狭、生死を分かつ

地理的条件のこと。

将とは、物事の本質を見抜く智、部下からの信頼、部下を慈しみ育てる仁の心、

信念を貫く勇、軍律を徹底させる厳しさなど将軍の備える器量を見ること。

法とは、組織編制、人事、兵站確保などの管理能力をいう。

5つのポイントは人の上に立つリーダーであれば、誰でも聞いたことがあり、

知っていることだが、本当に理解して実践する者は勝ち、分かったつもりで
本当は理解していない者は必ず負ける。
理解して実践する者は勝ち、

分かったつもりで本当は理解していない者は必ず負ける


アメリカの航空戦術家で軍事著作家でもあった、ジョン・ボイド

人命と資源の保護観点から「孫子」を以下のように捉えました。


”「武力に訴えず戦わずして勝つこと」を最重視する”
即ち、「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは

善の善なる者なり」(諜功編〈第3〉)

”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”