『ReBorn 星野道夫さんの足跡を辿る旅』その5

「ミチオの人生の最終目的はヒトを愛することを学ぶことでした。

彼はヒトを愛しきったのです」

フェアバンクスに住む絵本作家のメアリー・シールズさん

メアリーさんは、アラスカで最も人気の冬行事として知られる

「イディタロッドトレイル犬橇レース」を女性で初めて完走

このレースは、毎年3月の第1土曜日にアンカレジをスタートし、

2週間後に約1,200マイル(2,222km)離れたノームへの到着を

競う大変過酷なもの。

温かな暖炉のある素敵なウッドハウスの部屋で、道夫さんの

思い出話を、私たち夫婦に語ってくれた。

『人生はただ長生きすることに価値があるのではなく、

一瞬一瞬をいかに誠実に生きたかが大切だと思う。

その意味で、ミチオは44年間に普通の人々の百倍も
生きたのです。
彼は熊をとても尊敬していましたし、決して熊を恨んで
はいないと思います』


彼女の心の中にはミチオさんが生き続けている、そう強く感じた。
「シリアが亡くなったばかりなので、ジニーがとても
落ち込んでいるの。これからジニーを励ましにいかなくては

いけないのよ。

シリアが亡くなる前なら、ぜひ二人にもあなた方を紹介したかったわ」 
そう言って車に乗ると、僕達の車が迷わないよう親切に

途中まで先導してくれた。


その夜、フェアバンクスの郊外で見たオーロラは一生忘れられないだろう。
人生の記憶に残る、そう言えるような素晴らしいオーロラは、

いつまでも消えずに1時間以上も星空を彩っていた。

初めてオーロラを見ることができた妻と二人、感動しながら

帰路に車を走らせていると、森の奥から何か大きな影が前方の道に

から何か大きな影が前方の道に上がってくる。 

それは巨大な雄のムース。 こちらも驚いたが、向こうはもっと

慌てたようで、急いで森の方へ戻っていった。 

そのときのムースの姿と合わせて天空を彩るオーロラの姿は、

決して忘れることはない。


「ReBorn(再生)」
ボブ・サムとは人生における再生を

語り合うことができた。

最初会ったときから、彼は不思議なことを言っていた。
「明治神宮会館でのセレモニーに君たちが来ていたことは知っているよ」
本当に独特の世界を持っていた。 最初こちらから何を話しても

彼は全て無言でいた。 

何か余計なことでも言ってしまったかと思って帰宿すると、

夕食後に会いたいから自宅に来てくれとの伝言が届いていた。

モンゴロイドや日本の神話の話などをしていくうちに、

少しずつ彼と心が通じ合っていくのが感じられた。


翌日、彼は長い間手入れをしてきた墓地に私たちを案内してくれた。
夜、ボブに明日シトカを離れることを告げにいくと、
「もう一日シトカに滞在しないか。船が出港しないようだったら、

ぜひここに来てくれ」 

そう言うと別れをとても惜しんでくれた。

多くのことが起きるこの人生、どんなことがあっても
前を見て進んでいけば何度でも再生できる
私が体験した屋久島での再生のことを、彼は心に留めてくれた。

ケチカンへ戻る長時間の船旅の途中、天と海とをつなぐ

きれいな虹を見ることができた。

”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”