『何を食べるかでその人の生き方がわかる』

私は子どもの頃から、糠漬が大好きです。

特に、蕪、胡瓜、茄子などの夏野菜を漬け込んだの
が好物で、母が糠床である陶器の甕の中で、野菜と
糠をかき回したり、取り出した野菜の糠を水で洗い
落とす様が面白くて、いつも見ていました。



















挿花家の二部治身さんはこう語ります。

”野菜などの素材を塩や酢、醤油などに漬けることは
、もともとは保存がきかない食べ物を、腐らせずに
長くとっておく知恵。   

漬けることによって乳酸菌や酵母が働き、
その素材がもっている旨味が引き出されて、
より美味しい食べ物になってくれる。   

そんな漬け物や発酵食品こそ日本のスローフード
の原点だと思う。

いまはスーパーに行けば漬け物でもなんでも売って
いて、田舎でも味噌や醤油を手づくりすることは
少なくなってきた。   

でも少しの手間をかけることで、もっと美味しく
味わえるし、食べ物のことや自然のことがもっと
わかってくることもたしかなんやね。   

食べ物に関して忘れていけないと思うことは、
食べ物自体が季節やその土地の自然と不可分な
存在で、人の体に直接影響を与えるものであると
いうこと。

 
  
だから、少々見栄えが悪くても有機栽培の野菜を
使ったり、昔からその土地ごとに守られてきた
郷土料理を、地元のおばあさんに聞いて教えて
もらったり、葉っぱを器にしたり、季節の花を
あしらったりと、体にいいことや自然を食卓に
生かすことをいつも心がけている。”

そう話される二部さんですが、子育ての最中の
お弁当で苦労した時代もあったそうです。

「そうはいっても、理想に思う食卓が、我が家
で簡単に実現できたわけではないんや。   

たとえば、子どもが小学生の頃にこんなことが
あった。   

給食のない日に、サルトリイバラや朴の葉っぱ
に包んだ玄米のおにぎりをもっていかせたこと
がある。   

自然を感じてほしいからそうしたのに、子ども達
は少しも食べないでそのまま持って帰ってきた。   
そんなおにぎりが恥ずかしいってね。

 
 
日誌を見ると「素敵なお母さんですね」とあるのに、
子どもは「こんなの食べられない。パンと牛乳がいい」
なんて書いてある。   

子どもはウインナでつくった赤いタコなんかが好き
だけれど、 私はそんなことも絶対にしなかった。    

そりゃ悔しくて、泣きに泣いたな。
  
それでもめげずに続けているうちに、そのうち苦労した
甲斐があってか、「誰々くんのところはいつもステーキ
でいい」なんていっていた子ども達が「旬のものは
美味しい」なんていうようになった。

なにが本当に贅沢なのかとか、なにが体にいいのか
とか、時間はかかるけれど、自分の信じることを諦めず
にやり続けていけば、 いつか本当のことをわかって
くれると思うな。    

毎日の暮らしの中で、三度三度の食事に何を食べるか
は、とても大切なことだと思う。  
 
おおげさに言えば、何を食べるかでその人の生き方
がわかるし、食べ物にいちばん愛情が込められると
思うな。”

産地や原材料の偽装、農薬や化学肥料の過多など
でしばらく前より食品の安全性が問われるように
なってから、大地からの恵みによる食べ物が
見直されています。
 
大地の恵みに少々の手間をかけることで、本当に
美味しい食べ物をいただくことができるもの。
それはとても幸せなことです。

我が家では妻が以前から「何を食べるか」の意識が
高かったことから、ふだん口にするものは安心安全
で美味しいを重視。 

お陰で医者・薬要らず。たまには使うこともあります
が、ほとんどは頼らないで健康に毎日を過ごせて
います。 

ニ部さんの言葉は、流行などでは決してない
スローフードの本来の意味を教えてくれますね。 

”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”