『持続可能な社会の鍵を握る人々』

「持続可能な社会を作る上で、鍵を握るのは消費者です」
世界で消費者市民社会とそのための教育を推進してきた、ビクトリア・トーレセンさん(ノルウェー・ヘドマルク大学准教授)の言葉。
この「消費者市民社会」とは、平成20年版国民生活白書でとりあげられた概念。簡単に言うと、消費行動を通して変革を実現する社会のことで、消費者・生活者の行動を通して、公正な市場、社会的価値の創出、心の豊かさを実現する社会を表します。

”消費社会における個人というと、個人的利益を際限なく追求する利己主義的なイメージが否定できない。しかし近年は、ただ利便性や便益を求めるだけではなく、社会のために自らも行動すべきと考える人も増えている。

このような、社会に対して責任感を持った個人主義が徹底すれば、消費行動を通して社会を
変えることができるというのが、消費者市民社会の考え方だ。言い換えれば、投票や市民運動などを通してではなく、消費行動を通して社会変革を実現する社会だ。”
http://vimeo.com/27502775(日弁連の消費者問題対策委員会のシンポジウム)

消費者市民社会においては、消費者が持続可能な社会の形成に積極的に参画することが求められます。そして、そのためには教育を通じて実際の場や行動で学ぶことが重要
ビクトリア・トーレセンさんは、次の事例を紹介してその重要性を語っています。
”例えば、ある学校で人間の尊厳について話をしました。彼らの町には洋服工場があるので、生徒たちは自分たちが着ている洋服がどのようにつくられるのかというのを調べました。

その中で彼らはその洋服工場が使用している綿が、ロシアにあるウラル山脈の向こうから来ているということを発見しました。そこで子どもたちは、そのウラル山脈の向こうの地域の子どもたちとインターネットを通じて話をし始めました。

そして、その地域に住んでいる子どもたちの半分が、病気、癌になっているということに気づくのです。その子どもたちがなぜ病気になっているのかという理由は、良質の綿が取れるように散布される化学物質である殺虫剤によっての病気だということに気づきます。

(「ビクトリア・トーレセン氏講演会報告書」(日本弁護士連合会)より)

消費者である私たち一人一人が、このような消費者市民社会の構築に向けて消費が持つ影響力を理解し、持続可能な消費を実践し、主体的に社会参画・協働していくことは大きな力となることでしょう。国民生活白書では、消費者・生活者による3つの行動に期待を寄せています。
■「消費者市場行動」食品の安全や企業の社会的責任などへの監視を伴った選択
■「社会的価値行動」省エネ商品の購入やフェアトレード品の購入
■「幸福の追求」ストレスの少ないゆとりある生活を実現

こうした行動は、日常の消費行動の延長であり、私たち生活者にとって受け入れやすいものだと思います。

数年前に発行された本「スペンドシフト―〈希望〉をもたらす消費―」(プレジデント社刊)の著者、ジョン・ガーズマ氏は、日経のインタビューでこう語りました。

「2008年の金融危機を経て、米国の消費者は大量消費の夢から醒め、絆、信頼、未来のためにお金を使うようになった。消費行動とは自らの価値観を表現する手段となっている。そして、こうした流れは米国だけでなく、全世界に広がっている」

「スペンドシフト」とは、企業や資本主義というものに対して「より多く」ではなく「よりよく」を望んで、消費者が起こしている行動の波。

「量から質へ」というこの波に対して、これまで量を追っていた企業は、苦しい状況になるのは間違いないでしょう。透明性を持ち、倫理観、質の高さを提供できる企業そういった価値観をきちんと念頭に置いている企業。そういう企業のものに自分たちはお金を使いたいという消費者が増えてきているとガーズマ氏は言います。

「アウトドア衣料のパタゴニアがひとつの例だ。パタゴニアには「フットプリントクロニクル・ドットコム」というHPがある。自分たちのサプライチェーンを完全にオープンにし、
目に見えるようにして透明性を高くしている。

たとえば、ウェブサイトで商品をクリックすると、どういう形で消費者に渡っていくかが全部見られる。工場の労働環境もわかるし、全プロセスの中でのCO2の排出量についての情報を得ることができる」
ガーズマ氏たちの調査によれば、パタゴニアは消費者から選ばれるブランド、好まれるメーカーとしてトップレベルの地位を確立しているというデータが出ているそうです。地球環境の持続や、貧困などの社会的問題の解決が望まれる現代において、「買い物」を通した社会変革を実現するために、消費者自身の心がけが必要であると共に、良きパートナーとなる企業の活動が大事ということがわかります。

”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”