『「富の未来」を再び読む』

“知識の質は変化し、量はものすごい勢いで増えている。

そして、今までの知識の多くは死知識として退化していく。

そして社会の変化もどんどんとスピード化していっている。”


アルビン・トフラー
は、未来学者として文明論的な視点

から大きな時代の変化を分析し、「第三の波」、

「パワーシフト」などの著作で情報化社会のゆくえについて、

様々な予言・提言を行った未来学者として知られています。

この未来学の権威が2006年に著した未来の予言書が、
「富の未来」

インターネット、中国の台頭、家族の崩壊
など、さまざま
な事象の背後にある隠れた因果を読み解き、未来の姿を

説得的に提示し、世界中で大きな反響を呼びました。


知識情報、テクノロジー、科学と言う観点から人類の
未来志向を進めて行く
と、物質的成長の拡大という
路線による地球の許容量の有限さと生態系の破綻
考えざるを得なくなり、幾つかのポイントで既に限界を
超える中、「リービッヒの最小率」の作用で危機的な
状態に人類は入り込んでいる気がしています。

このような状態の中、現在を含む未来の姿を2006年に
描いたトフラーの「富の未来」
を久しぶりに読みたく
なりました。

トフラーは「富」の源泉というのは「欲求」であり、その
欲求を満たすために現在起こっている変化を、以下の
ように説明しています。

“第一の波にある富の体制は、主に栽培に基づく
もので、第二の波の富の体制は製造に基づいていた。

これに対して第三の波の富の体制はサービス、思考、

知識、実験に基づくものという性格を強めているので

ある。”

第一の波は人間が農耕栽培を始めたこと、
第二の波は産業革命が起こったこと、

そして第三の波は富の体制がサービス、知識、実験、金融、

情報技術などにおいて、個人や社会が広大なネットワークを

形成し、相互に響き合う状態になりつつあることだと

いいます。

トフラーは、その変化は見かけだけの変化ではなく、基礎的

条件の深部で起こっており、深部では「時間」・「空間」・

「知識」がそれぞれの時間で相互に影響しながら変化し続けて

いるのだと主張します。


“どの企業にも、どの病院や学校、政府省庁、市役所にも、

それぞれの内部に「時間の生態系」と呼べるものがあり、

いくつもの部門やプロセスが相互に影響しあいながら、

違った速度で動いている。 


完璧な同時化は達成できないが、通常の状況のもとでは

同期のズレは許容できる範囲内に維持されているとみられる。 


だが今日の状況は通常とはとてもいえない。
経営のグルの助言は現実離れしているが、グルが対応しよう

とした変化の加速は、当時もいまもきわめて現実的な問題だ。

企業もそれ以外の組織も動きを速めるよう、
過去に例のないほど強く迫られている。

つぎつぎに起こる技術革新、即座に要求を満たす
よう求める消費者や顧客、きびしい競争をいう
要因が重なって、変化のペースが速まっている。

ひとつの部門や部署が遅れれば、その影響が
組織全体に何倍にもなって広がっていく。“ 


そして未来が素晴らしいものかどうかは分からないと

言いながら、トフラーは「富の未来」について限りなく

楽観的です。


人類の平均寿命の伸長や、貧困については遺伝子組換え

食品の開発等により解消が促進されるなど、科学技術、

知識の発展によって、昨日より今日、今日より明日と

言った状態で少しづつ良くなっており、またそうなると

考えています。


“第二の波の時代には、技術や経済だけの動きだけでは

なく、社会、政治、哲学の要因が絡んだ大きな産業革命

のうねりであったが、文化、宗教、芸術は総て副次的に

なり、経済中心の考え方が主流であった。


しかし、第三の波の革命的な富の時代には、知識の重要性

が高まり、経済は大きなシステムの一部の地位に戻り、

文化、宗教、倫理などが舞台の中心に躍り出て文化全体

にわたる変化を引き起こしてきている。“


天候と地主に泣かされながら黙々と農業を続けていた人や、

組み立てラインの付属物として働いていたが、

第三の波の恩恵を受けて、知的労働や先進的サービス業

へと移行することによって生活環境が改善されるのは、

明るい未来へ向けての第一歩だといいます。

“未来の夜をかいま見ようと、ブラジルのクリティバを

訪問した。リナックスの国際的大手のコネクティバを

はじめ、ソフトウェア会社200社があり、環境にやさしい

新都市のモデルとして、世界各国の建築家や都市計画家

に注目されている。


ある日の深夜、筆者は同市の元市長で都市計画家の

ジャイメ・レーネルに市内を案内してもらった。

はじめに訪れたのは「24時間通り」であり、新しい

喫茶店やレストランの照明が輝き、大勢の若いカップル

が遊び、レーネルに微笑みかけ手を振り「ジャイメ」と

呼びかけた。


つぎの通りは医院、歯科医院、弁護士事務所などが集まり

、24時間の専門サービスを受けられるように設計されている。

つぎの通りには24時間の行政施設が集まっていて、

許認可の取得などの市の行政サービスを、いつでも

都合のいい時間に受けられるようになっている。“


NHK「未来への提言」の番組でトフラーは、

21世紀の課題として「人類の再定義」を掲げ、

以下を語りました。


「今後、生物学、遺伝子工学、ナノテクノロジーなど

が目覚しい発展をとげ、人間の頭脳と力を劇的に向上させ

新しい能力を手にする次世代の人間になるかもしれない。

脳科学や生物学の発展によって新たな問題が浮上し劇的な

対立が起きるであろう。私たちの倫理観が問われている。


人間が互いに殺し合ってはいけない。

良心を失わず、更なる知恵と互いに手を携えて行く

力を獲得出来るよう願っている 」   


トフラーは、科学技術の将来には比較的楽観的でしたが、

リバイアサン(旧約聖書の怪物に例えられた国家)を

野放しにはできないことは認めざるを得ないでしょう。

浅い知識よりも深い知恵の領域を深化させていく

社会を志向すること、ここに照準を当てて未来を

見据える必要がある。


「持続可能な未来」を共創し、人間が本来持っている

「仁」を顕現させる人間学を活かすことが必要である

とあらためて思います。

”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”