『円融自在に全体を捉える知性』

力と力がヘゲモニー(覇権)を争う「グレートゲーム」。

今から100年前の1914年、第一次世界大戦の
発端となったサラエボ事件
が起きました。

100年前の日本や世界を調べてみると、現在にも
つながる問題がすでに起きているのがわかります。



















「第一次世界大戦と日本」
(講談社現代新書)を著した
井上寿一氏(学習院大学学長)は、日本の100年前
と現在の類似点
として以下の3つを挙げています。

・長期経済停滞
・社会的な格差の問題
・政治


「長期経済停滞ですが、第1次大戦による戦争
景気とその後の反動不況は、約20年前の
バブル崩壊とその後の20年ととてもよく似ている
のではないかと思うのです。

今はアベノミクスで経済が上向きになっています
が、ここ20年間は長期停滞が基調になっています。

第1次大戦後も、経済は上向きにはなることも
ありましたけれども、長期停滞が基調でした。」


「そうした経済状況の中で、初めて社会的な
格差
社会の問題が意識されだします。

G20(20カ国・地域首脳会合)
は世界の主要国が
参加するもので、政治・経済に与える大きな
影響
を持っています。

■アジア太平洋:日本、中国、韓国、インド、インドネシア、
    ロシア、トルコ、サウジアラビア、オーストラリア
■欧州: イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、EU
■米州:米国、カナダ、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ
■アフリカ:
南アフリカ

先日オーストラリアで開催されたG20では、現在
の主要問題として、次の項目を中心に議論された
ようです。

・「ウクライナでのクリミア地方など東部親ロ地域のロシア編入」
・「中東におけるイスラム過激組織イスラム国(ISIS)の脅威」
・「西アフリカでのエボラ出血熱に対する感染対策の国際協調」
・「全ての国が参加する温暖化対策の新たな枠組み」














ローマ法王フランシスコ
は、G20首脳会議を前に、
開催国オーストラリアのアボット首相に宛て、
以下の内容からなる書簡を記されたといいます。

・世界経済の持続的発展について話し合う
この会議が、雇用問題をはじめ、公金の支出・
運用の改善、公平な税制、正しく安全で透明性
のある金融ルールなどを考える機会となることを
期待。

・世界には多くの人々が飢えや、失業、社会的疎外
で苦しみ、留まることを知らない消費主義が環境を
破壊し続けている現状を示しつつ、

政治的・専門的な討議の後ろには、非常に多くの
人々の生活がかかっているということを忘れず、
この話し合いが単に原則を述べ合うだけのものに
終わらないように願う。


・異なる宗教や民族に対する攻撃など、中東地域や
各地で市民を脅かしている闘争やテロリズムが人道
的に耐え難い状況を生んでいると述べ、こうした闘争
の犠牲者、特に難民に対し寛大と連帯を示して欲しい。


「中東地域には3つの時間軸が流れている。

日々の政治や紛争といった短期的な時間軸、
地政学的な変化のような中期的な時間軸、
社会文化的な変遷に見られる長期的な時間軸

中東戦略を考えるには、これらの3つの時間軸
を理解する必要がある。」
(岡崎研究所)

この3つの時間軸は、中東のみならず他の地域でも
当てはめて考えたい大切な視点

世界そのものが多極化する現代は、ネットワーク
を形成できる国や地域だけが力を発揮できる時代
であると識者は言います。















そしてそもそも、私たち日本人は円融自在に
全体を捉えようとする知性
をその思想の中に
持ってきました。

「分割は知性の性格である。まず主と客とをわける。

われと人、自分と世界、心と物、天と地、陰と陽、
など、すべて分けることが知性である。

主客の分別をつけないと、知識が成立せぬ。
知るものと知られるもの―この二元性から
われらの知識が出てきて、それから次へ次へと
発展してゆく。

哲学も科学も、なにもかも、これから出る。
個の世界、多の世界を見てゆくのが、西洋思想の
特徴である。

それから、分けると、分けられたものの間に争い
が起こるのは当然だ。

すなわち、力の世界がそこから開けてくる。

力とは勝負である。制するか制せられるかの、
二元的世界である。

(中略)


二元性を基底にもつ西洋思想には、もとより
長所もあれば短所もある。

個個特殊の具体的事物を一般化し、概念化
し、抽象化する、これが長所である。

これを日常生活の上に利用すると、すなわち
工業化すると、大量生産となる。

大量生産はすべて普遍化し、平均にする。
生産費が安くなり、そのうえ労力が省ける。

しかし、この長所によって、その短所が補足
せられるかは疑問である。すべてを普遍化し、
標準化するということは、個個の特性を滅却し、
創造欲を統制する意味になる。

それから「ドゥー・イット・ユアセルフ(自分で
おやりなさい)」式の未完成家具や小道具類
ができて、それがかえって、今まで省けた
労力を消耗することになる。

ある意味での創作力の発揮になるものが、
きわめて小範囲を出ない。つまりは機械の
奴隷となるにすぎない。

思想面でも一般化・論理化・原則化・抽象化
などいうことも、個個の特殊性、すなわち、
各自の創作欲を抑制することになる。
だれもかも一定の型にはまりこんでしまう。

どんぐりの背くらべは、古往今来、どこの
国民の間にも見られるところだが、知性
一般化の結果は、凡人のデモクラシーに
ほかならぬ。」

 (鈴木大拙「東洋的な見方」)
 














二つの大戦
の後に世界を東西に分けた冷戦の
終結
、米国の金融と軍事を中心とする帝国化
地球規模の市場の誕生世界同時不況

揺れ動く世界は、中東の石油や宗教が絡む
湾岸戦争を経てEU、BRICs、ASEANが
台頭
してきました。

多極化への志向をますます深めていく
世界の様相を見つつ、不透明ながらも
様々な可能性
がうかがえます。

主客の分別をつけようとする西洋の思想と、
これを分けない東洋の思想。

「主客未分化」というファジーで曖昧に見える
この東洋思想は、一方で円融自在に全体を捉え
行動することを後押し
してくれる知性であり、
21世紀に入ったこの世界ではとても大切なもの
ではないか。

大拙師の言葉に励まされます。

”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”