『侍とサムライ』

「最近、侍の表記が、サムライというカタカナとなる場合が
多くなってきた。」


興味深い記事に目が留まりました。
最近の時代劇は、一昔前のそれとは違うなということを
感じており、筆者(映画ジャーナリスト・大高宏雄氏
の言うことに同感の思いです。
「重い意味が充満した侍から、軽いテイストを感じさせる
サムライへの移行である。侍の古典的な像は、このように
しだいに変質を遂げている気がする。

その変化に対応し出しているのが、若者向きを強く意識
する大型時代劇(だから興収が高い)はともかくとして、
年配者中心に人気のドラマ時代劇であるという点がとく
に興味深い。」


・『武士の家計簿』(2010年/15億円)
・『超高速!参勤交代』(2014年/15億5000万円)
・『駆込み女と駆出し男』(2015年/約10億円)
・『殿、利息でござる!』(2016年/現在10億円超)


人間ドラマとしての側面の強いこれらの時代劇作品は、
“裏方”の武士の日常がおもしろおかしく描かれており、
武士の家族劇という側面も強調されて人気となったよう。

大高氏によれば、その人気には、3つの理由があるといい
ます。

1.経済的な話が比較的多いこと
それゆえに、庶民目線。現代の観客は、自分たちの
生活とも隣接する身近な題材だと認識できると、
すんなり入っていける。

2.話全体に、軽さがあることも重要
暴力描写の重厚性を嫌う風潮のある今の時代に
ふさわしい。肩肘はらず気軽に映画と接することが
できる。

3.軽さから通じる笑いの要素
笑いは映画への関心の度合いを高める。泣ける映画と
ともに、笑える映画もまた、今の観客のニーズに見合う
もの。
今年の大河ドラマ『真田丸』も、こうした要素を重視して
いるようで、とりわけ2や3を強く感じます。

NHKは、『花燃ゆ』や『平清盛』、『花の乱』などが低視
聴率でしたが、いずれも視聴者に、楽しいと言うワクワク
感なり、話の面白さ興味深さを感じさせて、次が楽しみ
になると言った気持ちなり期待感を起こさせなかった
のが
原因といわれています。

『真田丸』は同じ轍を踏まないように脚本しているので
しょう。

一方でスペクタクル風、歴史劇風時代劇は、今も廃れ
ていないことが興行成績からわかります。

・『のぼうの城』(2012年/28億4000万円)
・『清須会議』(2013年/29億6000万円)
・『るろうに剣心』(2012、2014年/3作で累計126億)
・『信長協奏曲』(2016年/45億5000万円)


「それら大型時代劇にも共通点がある。
中身自体が、それほど重厚な感じがしないことだ。

主演俳優の個性がそれを象徴している。
殺陣にしても、ギラギラとした暴力的な感じの描写
が少ない。本来あるべき厳しい上下関係も、
それほどの緊張感はない。」

(大高氏)

時代劇から、本物の侍がいなくなりつつあるという感想
に、「確かにそう」と。

片岡千恵蔵、市川右太衛門、月形龍之介、
大友柳太朗、美空ひばり、萬屋錦之助、大川橋蔵、
東千代之介、中村賀葎雄、里見浩太郎、
など

かつては、東映大型時代劇に錚々たる俳優陣がおり、
鎬を削る演技が見られました。歴史好きだった私は、
子ども時代に夢中でテレビのブラウン管に目をやって
いました。

「ストイックな生き方をし、主君に殉じる場合もあるのが
侍だ。侍には、家族を超えた組織への忠誠心が、死を
賭した緊張感とともに色濃くある。

その美学、思想の上に立って、殺陣が存分にある重厚
な時代劇は成立してきたのに、今やその中身が変質
してきた。それは、侍の古典的な像に対する人々の
対応の変化と無関係だとは思えない。」

(大高氏)

社会を反映し、人々の共感をいかに呼ぶかに苦心する
時代劇
。個人的には、そのことが理解できる一方で、
日本人の生き方・生き様をしっかり見せてくれる作品
望みたいと思います。

”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”