「発酵道」 酒蔵の微生物たちが教えてくれた
人間の生き方
(寺田啓佐著、PHP研究所刊)
これは、昨年お亡くなりになった寺田啓佐さん
(寺田本家23代当主)が生前に出された本。
寺田本家は千葉県香取郡神崎町で創業330年、
24代続く日本酒の蔵元。
微生物がイキイキと発酵できるよう手作りに
こだわり、無農薬米のみを原料として
昔ながらの生酛造りでお酒を醸しています。
人間の生き方
(寺田啓佐著、PHP研究所刊)
これは、昨年お亡くなりになった寺田啓佐さん
(寺田本家23代当主)が生前に出された本。
寺田本家は千葉県香取郡神崎町で創業330年、
24代続く日本酒の蔵元。
微生物がイキイキと発酵できるよう手作りに
こだわり、無農薬米のみを原料として
昔ながらの生酛造りでお酒を醸しています。
私が寺田啓佐さんのことを知ったのは、
「神渡良平人間学」の打合せを兼ねた食事会で、
ゲストの村上信夫さんと講師の神渡良平先生と
ご一緒した際、お二人の共通の知り合いの
名前の中に寺田さんがあったことからでした。
私自身、もともと少年期より父の創業した
発酵コンポストにより微生物の「発酵の世界」に
馴染んでいたことから、自然の摂理に倣った
日本酒造りに取り組んだ寺田さんの世界観に
関心を深く持ちました。
利根川に接し、稲の黄緑色がまぶしい
千葉県神崎町。
この町で330年続く蔵元・寺田本家の当主の
寺田啓佐さんは、電化製品の販売会社に
勤めていた25歳のとき酒蔵に婿入り。
”婿入り翌年の1975年から売り上げが落ち始めました。
消費者の日本酒離れが始まっていたんです。
そんな中で私は、いかに儲けて勝ち組になるか、
そればかり考えていました。
利益を出すためなら、原料を安く抑え、手間暇かけずに
コストダウンを図る。
だから、別にルール違反じゃなかったし、みんなも
やっていたので、アルコールや添加物で水増しした酒を、
手間を省いて造っていました。
でも経営は好転せずに借金がかさみ、居酒屋や蕎麦屋
を開いたけど、みんな空回り。
「こんな若造の下ではやってられない」と、
杜氏も番頭も辞めましたが、「お前ら何だ。自分だけが
頼りだ」と思っていました。
ストレスでお腹が痛くて、人の問題、金の問題、
自分の体の問題、ぜんぶ八方塞がりでした。
病院に行くと、直腸が腐っていて、即手術。
35歳でした。”
病床で寺田さんは、自分はどう生きたいのかを考えます。
”そこで、「発酵すれば腐らない」という大テーマに
行き当たったんです。”
病気体験の中で反自然物や不調和の積み重ねが
心身のバランスを崩し、病気にもなっていることに
気づいた寺田さん。
以後様々な体験を経て、自然の摂理に学び、
生命力のある命の宿った「百薬の長」たる本来の
日本酒造りを目指し、柔軟な発想で健康に配慮した
ユニークな酒を数々造りだします。
”世界中、紛争や飢餓、貧困、病気はやむことがない。
自然破壊、環境汚染も加速度的に進んでいる。
不幸がどんどん広がっている。
広がっている不幸は、世界などという外の話では
なかった。私自身、身から出たさびで体を壊し、
会社を倒産寸前にしてしまった。
どうしてだろう。
なぜだろうとふたたび思うようになった。
何か大切なものを見落とし、間違った方向に進んで
きたのではないだろうか。
そう考えたとき、発酵醸造を生業とする私自身の
世界を見つめた。
発酵醸造という微生物の世界。
その世界は、互いに支え合って生きる、相互扶助
の力が大きく作用している。
微生物の世界は、「愛と調和」で成り立っていた。
それを見て、「人間も微生物のように、発酵しながら
生きれば、争わなくても生かされる」ことを確信した。
目に見えない小さな生き物である微生物が、
自然を学ぶうえで大きな手がかりとなった。
微生物の世界は、生き物の世界。
生き物の世界は、自然界。
そもそも自然というものは、なんだろう。
自然の仕組み、働き、力は、どうなっている
のだろう。
自然界には法則がある。
その法則をきわめようとした近代科学は、
逆に自然界そのものから離れていったのでは
ないのか。
自然から遠ざかれば遠ざかるほど、不幸や病に
近づくことになったのではないか。
その学びを進めるうちに、「発酵」と「腐敗」という
二つのファクターが、すべての物事を考える
ものさしとなり、自分自身が生きるうえでの
指針にもなっていった。
やっと見つかった。
うれしかった。
論語の「朝に道を聞かば、夕べに死すとも
可なり」の心境だ。涙が止まらなかった。
混迷する世を救い、人として進むべき道を
明らかにしてくれる鍵が、微生物の暮らし方
のなかには、いっぱい隠されていた。
人類が本当の平和、健康、幸福を達成する
方法も、そこにあるのではないかと思う。
即席の酒造りをやめて自然酒造りに転向し、
発芽玄米酒を製造する過程で、
目に見えない生命、微生物に出会った。 ”
(『発酵道』 )
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