「五千に十万じゃぞ。その十万が総攻撃を
仕掛けて参る。
小田原攻めも二十万で囲んだと聞いておる
が、結局は攻める前に北条が白旗を掲げた。
我らが最初で最後であろうぞ」
(「天を衝く」 秀吉に喧嘩を売った男・九戸政実)
歴史好きの息子が「項羽と劉邦」を読み終え、
私の書棚から次に取り出したのが「天を衝く」。
仕掛けて参る。
小田原攻めも二十万で囲んだと聞いておる
が、結局は攻める前に北条が白旗を掲げた。
我らが最初で最後であろうぞ」
(「天を衝く」 秀吉に喧嘩を売った男・九戸政実)
歴史好きの息子が「項羽と劉邦」を読み終え、
私の書棚から次に取り出したのが「天を衝く」。
現在の青森県東部から岩手県盛岡市までを
支配した南部氏の支族、九戸氏の棟梁、
九戸政実とその一党である九戸党の生き様を
描いた高橋克彦さんの名作。
世が世であれば、天下に号令することが
できたかもしれないといわれる程の器量を
有していた、政実の生涯は大変に激烈。
相手の裏を読む緻密な戦略を持ち、
勇猛な戦振りで数々の戦いを制していきます。
東北平定を目指す豊臣の十万の大軍に対し、
負けを覚悟の悲壮な篭城戦を挑む中、
凛とした蝦夷魂を持つ正実兄弟を
中心とする九戸党の結束の強さと潔さが
強く印象に残ります。
「誰かが命を賭して歯止めをかけなければ
日本は腐っていく」
「民を導く立場であればこそ武者は
道標でなければならない」
我欲ばかりで領地を拡大するのみの武者で
あったなら、政実は若くして南部を統一し、
天下取りに名乗りを挙げることができました。
しかし、政実はそれをしませんでした。
南部のために手駒となって働き、欲を封じて
生きました。
高橋さんの本で描かれてきた、
蝦夷・東北の地に生きた英雄たち。
阿弖流為、安倍貞任、奥州藤原氏。
そして九戸政実。
「火怨」「炎立つ」「天を衝く」の通称「奥州三部
作」には、奥州の英雄たちの素晴らしい生き様
が描かれています。
京の中央政権から制圧されてきた蝦夷の魂に
見られる、凛として筋を通して生きる姿。
蝦夷・東北は歴史の中で、幾度も権力者たち
に制圧されていきます。
和議という形の終戦をも、踏みにじる権力組織。
幕末に筋を通とそうとした会津藩に対する
明治新政府の過酷な処置にも、
それを見ることができます。
大変に過酷な歴史の中、高橋氏はそれに
屈しない蝦夷の魂を丁寧に描いています。
この生き方こそは篠浦伸禎先生(都立駒込病院
脳神経外科部長)が説かれる、志を持って
人間脳が動物脳をコントロールしている人間の
生き様に見えます。
寝る時間を惜しんで、ひたすら本を読みまくって
いる息子。
『面白すぎて、早く次のページが読みたくなる』
と真剣な様子。
この名作を読んだ息子は、きっと「心は九戸党」
になることでしょう。
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「天を衝く」
(2004年 高橋克彦著 講談社)
奥州の最北端陸奥には、南北朝時代から
源氏の血を引く南部一族が根付いていた。
周辺には津軽・秋田・斯波・葛西が蟠踞して
南部一族と対立していたが、その南部一族で
最強と呼ばれる九戸党という集団を率いるのは、
北の鬼と呼ばれる知勇兼備の武将、九戸政実。
織田信長が天下布武を掲げた頃、陸奥の南部家
では内紛が続いていた。
新たな時代を予見する九戸党の棟梁・政実は、
ついに宗家を見切った。
豊臣秀吉が西国を統一すると、南部家はすぐに
秀吉に臣従しようと行動をとる。
しかし、奥羽を田舎だと蔑む豊臣政権は
冷たい態度をとるも、南部家はひたすら下手に
出て家名存続を願う。
秀吉という奥州武士の気持ちを量ろうとせず、
損得勘定で動く人間を嫌う政実は、
豊臣政権とついに死を賭けた喧嘩に挑む。
1591年、奥州に十万の大軍勢を派遣した
豊臣に対し、戦の天才「北の鬼」九戸政実は
武者揃いの一族郎党を束ね、奥州の地を
駆け巡る。
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