「インド宇宙誌―宇宙の形状・宇宙の発生」
定方晟(さだかたあきら)博士の名著を久しぶり
に読みました。
1988年に購入してから30年弱、書棚に置いて
宇宙に思いを向ける時、時折頁を開いてきたもの。
定方晟(さだかたあきら)博士の名著を久しぶり
に読みました。
1988年に購入してから30年弱、書棚に置いて
宇宙に思いを向ける時、時折頁を開いてきたもの。
本書は、仏教(小乗→大乗)、ヒンドゥー教(プラーナ→タントラ)
と各々の宇宙(空間、時間)観を豊富な図を添え解説したもの。
多様にして混沌たる人口12億人を有する国、インド。
そのインドには様々な宗教があり、大変ユニークな宇宙観
を持っています。
バラモン教、ヒンドゥー教、タントラ教、小乗仏教、大乗仏教、
金剛密教、ジャイナ教、シーク教があり、それぞれ独自の
宇宙論を持っています。
最大のものは紀元前10数世紀から一千年の間に成ったと
いうインド最古の宗教文献『ヴェーダ』。
『ヴェーダ』はリグ・サーラ・ヤジェル・アタルヴァの四つから
成り、いわばインドの哲学、宗教、文学の根源をなすもの。
『ヴェーダ』はバラモン教の聖典であり、バラモン教が土着
の民間信仰などを吸収して大きく変貌した形のものが、
ヒンドゥー教。
宇宙の構造についての基本的な見解は、地と空気と天の
三層から成るというもの。そして地・空気・天はそれぞれが
さらに三つの層に分かれます。
つまり宇宙は全部で九層に分かれると考えられています。
人間が住むのは三層の地の最も高い部分で、下界の
二層を支配するのは神の対立者アスラ(阿修羅)。
天とは神を意味すると同時に神の住む高い所のことで、
仏教にあっては天の三層は欲界・色界・無色界と区分され
、ちなみに最高天は“有頂天”。
空気の三層は天の空間、地の空間、その中間の空間と
分けられ、雲や雨は地の空間にあり、太陽はその上の空間
を通過するとされています。
定方博士は別著の「須弥山と極楽 -仏教の宇宙観-」
(講談社現代新書)にて、紀元5世紀、インドで集大成された
「倶舎論」が、「須弥山」にはじまり、人間が宇宙をどう
把えていたかを、詳細に描写しています。
そして、「倶舎論」を基礎に、仏教の宇宙観の変遷をさぐり、
輪廻と解脱の2つの思想の誕生・発展の経緯を明らかにし
、その現代的意味を説きました。
「輪廻と解脱の思想―仏教にはさまざまな経典や言葉が
あるけれど、結局は輪廻と解脱の2つの思想に帰する
といえよう。
仏教者はこうした輪廻的宇宙と解脱への道との両方を、
それぞれ吟味し、研究し、やがてそれらを1つの壮大な
体系にしたてあげた。
そのような体系を示す書物の1つに、インド5世紀の仏僧
ヴァスバンドゥの『倶舎論』がある。
この中に須弥山説と呼ばれる仏教宇宙観が示されている。
これが、後に“地獄と極楽”にまつわるさまざまな考え、
描写へと発展し、日本にも大きな影響をあたえた。
一見、過去のもの、われわれとは無縁のものと思われる
仏教宇宙観も、実は、いまや新しい世界観を樹立する上で
、重要な役割をになおうとしている。」
ヒンドゥー教における大陸の世界観は、同心円状に並んだ
7つの海と7つの大陸。
この7つの海を満たすのは、内から「塩海」「糖蜜海」
「葡萄酒海」「バター海」「凝乳(固まった牛乳)海」「牛乳海」。
料理に欠かせない海で、「牛乳海」の外は黄金の土地、
全て黄金でできており、生物は住めないといいます。
「しかし人間はどこかに自己の生を基礎づけるべき
不動の足場を築きたいと思うものである。
それならばその足場をわれわれはわれわれの前方
にではなく、むしろわれわれがわれわれの背後に
残してきた原初の無意識の世界に求めるしかないだろう。
私はこの点で無念無想の方向に真理を追究した
インド人の叡智を高く評価する。」
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