『人生からの問いに答える』

オーストリアの精神科医で心理学者ヴィクトール・
フランクル
が著した「夜と霧」

発行部数は、(20世紀内の)英語版だけでも累計900
万部
に及び、1991年のアメリカ国会図書館の調査で
「私の人生に最も影響を与えた本」のベストテン

入っています。



フランクルの本は、読者がみずから生きる意味を
見出していくのを支える力
を持っています。

第二次世界大戦
の際、ナチスの強制収容所での
過酷な経験をつづった世界的なベストセラー
ですが、
そこから導き出された真理は、「どんな時にも
人生には意味がある」
というもの。

フランクルは、人の主要な関心事は快楽を探すこと
でも苦痛を軽減することでもなく、「人生の意味を
見出すこと」
であるとしました。

「人生の意味を見出している人間は、苦しみにも
耐えることができるものである。」
 

就活に婚活、そして貧困問題や減らない自殺者
……。

具体的な形があるわけではないものの、漠然とある
空虚感
と、そこから生まれる疲労感に襲われ、
先の見えない不安な日々を過ごしている人も多い
現在の日本。

うつ病の患者さん
は今や百万人超といわれています。
とりわけ深刻なのは、自殺者の増加

国の調べによると、すでに十年以上前から三万人を
超えて
います。

一般に、自殺者の背後には未遂の方が十倍から
二十倍
いるといわれますので、じつに三十万人から
六十万人の方々
が、毎年死の淵に立っていること
になります。



深く悩む人は、深く濃密な人生を生きることができる人。 
浅くしか悩めない人は、浅い人生を生きる人。

1972年、フランクルがカナダの大学の講演で語った
言葉。

「 “意味”の喪失感は今日非常に増えています。
とりわけ若者の間に広がっています。
それは空虚感を伴うことがよくあります。

昔のようにもはや伝統的価値観が何をすべきかを
教えてくれません。今や人々は基本的に何をしたい
のかさえもわからなくなっています。」

経済的な豊かさを追い求めて来た現代社会

そこに豊かさゆえの苦悩が生まれることをフランクル
は指摘しています。



「私達の社会がこんなに豊かに便利になった
はずなのに、生きる意味が見えにくくなっていく。

何を信じたらいいのか、どう行動したらいいのか、
ということは個々人が決断しなければいけない。
何故なら自由があるから。

我々は伝統的価値とか、あるいは宗教的な価値
から解放されて、個人が自由になった。
個人が自分で何を信じるかを決めればいい。

どう行動するかを自分で決めなさい、と投げ
返されているわけです。

でも、結局、それを見出そうとしても、自分を
見つめれば見つめるほど、矛盾の中に入り込んで
いってしまう」
(姜尚中氏)



多くの人は年を取ると未来が残り少なくなってしまう
嘆きますが、フランクルはそれを否定します。

「苦悩から逃げずに生き抜いた時、過去はその人の
人生を豊かにする、かけがえのない財産になる。

体験したすべてのこと、愛したすべてのもの、
成し遂げたすべてのこと、そして味わったすべての
苦しみ。

これらはすべて忘れ去ることはできないことです。
過去となったものはすべて消え失せるというのは
間違っています。逆なのです。

“過去”というのは、すべてのことを永遠にしまって
くれる、言わば“金庫”のようなものです。
思い出を永遠に保管してくれる金庫なのです。」


多くの人がこの瞬間が大事ということを言いますが、
フランクルのように過去こそ一番大切で確実なもの
だという者はいません。

フランクルは、生きられなかった時間は永遠に失われて
しまうけれども、生き抜かれた時間は時間の座標軸に
永遠に刻まれ続ける
と言います。

人生の幸・不幸を決めるのは
、その人の人生に
起きた出来事そのものでなく、人生に起きる
様々な出来事をその人がどう受け止められるか
にかかってきます。

生きる意味を求めるのではなく、人生からの問い
に答える
ということ。

どんな人のどんな人生にも意味
があります。
大切なのは、過去の原因探しをすることではなく
その出来事を見つめ、味わうこと。

そうすることで、奥に隠れている意味を理解する
ことができます。



「フランクルを読むうちに、私たちは、「私の幸せは
どうすれば手に入るのか」「私の自己実現は
どうすれば可能なのか」という私中心の人生観を、

「私は何のために生まれてきたのか」
「私の人生にはどのような意味と使命が与えられて
いるのか」という生きる意味と使命中心の人生観
へと生きる構えを180度転回することが求められる
のです。」
(諸富祥彦・明治大学文学部教授)

「どんな時も、人生には意味がある。 
なすべきこと、満たすべき意味が与えられている。 

この人生のどこかに、あなたを必要とする
''何か"があり、 あなたを必要とする''誰か″
がいる。 

そしてその''何か"や''誰か″は、 あなたに
発見されるのを''待って″いる」



”それでも人生にイエスと言う”
何と、私たちを強く励ましてくれるメッセージでしょう。

これは強制収容所の囚人達の間で歌われた
歌詞の一節


フランクルは晩年までこの言葉を語り続けました。
逆境を越えて、人生を生きていく勇気と知恵を
与えて
くれるメッセージ。

フランクルのこのメッセージは、実に半世紀に
わたって、人生に絶望しかけた人々の魂を
鼓舞して
きました。

「夜と霧」のヨーロッパと今の日本とでは、考え方が
異なる
ところも少なくないでしょう。

時代もずいぶん変わりました。強制収容所のような
特殊な環境
にいるわけでもありません。

しかし「夜と霧」は、そうした時代の違いを超えて、
私たちの心に響く真理に満ちて
います。

”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”