『雨の日とジムノペディ』

「3つのジムノペディ」（エリック・サティ作曲）

古代ギリシャの祭りで、戦死した兵士を悼むための
若者たちの裸の踊りをもとにした、ゆったりテンポが
雨の秋日に心地よい曲。

1番と3番は、ドビュッシーによって管弦楽曲に編曲されて
おり、現在はポップスやジャズで様々なアーティストが
アレンジしています。

エリック・サティという作曲家は、異色の作曲家といわれて
います。なかには、“異端児”とか“変人”と称される場合も
あります。

このようなレッテルが貼られたのは、サティが常に己の心
の命じるところに正直に生き、自分らしく音楽に向き合う
ことが常識への挑戦となった結果だと聞きます。

名誉や権威を求めることなく、真摯に理想の音楽を追求
し、現代の音楽につながる新しい扉を開いたサティの
功績。 

そのサティが書いた数ある作品の中で最も有名で、
目指した音楽の原型が明確に刻まれているのが、
「ジムノペディ」。

サティは1866年5月17日にフランス北部のノルマンディー
地方の港町オンフルールに生まれました。

6歳の頃、教会のパイプオルガンの音色に魅了され
、音楽に傾倒します。

8歳で正式な音楽教育を受け始めると、抜群の
才能を示したといいます。

父の強い意思により13歳で難関のパリ音楽院に
入学。

しかし、サティにとってパリ音楽院での日々は
退屈だったそうです。

授業をさぼってノートルダムのカテドラルに避難
し時を過ごすことが多くありました。

そして旧来のクラシック音楽の枠からはみ出た
音楽への関心が高まっていきます。

守旧的な音楽教育には耐えられなくなり、
音楽院を退学し、兵役に就きます。
20歳の時でした。

音楽エリートへの道は用意されていた訳ですが、
サティはそれを拒否し、市井の人々の中に分け
入りました。

21歳の時、病気が理由で除隊し、パリに戻ります。
モンマルトルのキャバレーで、シャンソン歌手の
伴奏ピアノを弾き生計を立てます。

この時に見た、市井の人々の気取らない生活振りは、
サティにとっての人生の学校であったそうです。

そして、パリ音楽院で勉強したような音楽ではなく、
もっと人間によりそった素朴で自然で美しい音楽を創る
ことを目指します。

そして、作曲されたのが「3つのジムノペディ」。
かのドビュッシーが編曲したということで話題になり、
サティの知名度は上がっていきます。

若い世代の音楽家たちはサティの音楽に
注目します。

サティが目指した旧来の音楽の枠を超える
新しい響きは、パリの音楽界に浸透して
いきました。

しかし、サティは相変わらず、貧しく、パリの場末
のアルクイユ地区の古くて狭いアパルトマンに
隠遁者の風情で暮らしていました。

その生活ぶりは、生涯変わらなかったと
いわれています。


「エリック・サティを聴くと、常識の枠を超えるのは、
己の心に正直になること、そしてしなやかな勇気
の成せる業だ、と感じます。

そこには、権威も伝統も賞賛もありませんが、
自由があるようです。」
（音楽愛好家・小栗勘太郎氏）