『混迷の中東を視る』

「テロは容認しない」「言論の自由を守れ」
 
フランス週刊紙銃撃などの一連のテロ事件で
犠牲となった17人を追悼し、テロに屈しない決意
を示そうとする大行進。

少なくとも370万人が参加し、史上最大の人出の
象徴と位置付けられました。

1980年代ごろからの慢性的な不況は、階級格差や
雇用不安となって広がり、その原因を移民に求める
傾向
が出はじめ、極右「国民戦線」が勢力を強める
など、排外主義が高まっています。

自由や人権の名のもとになされる反イスラム的
言説
は批判しにくい側面があるため、イスラム嫌悪
が蔓延し、ムスリムはますます孤立化の状況

仏新聞社襲撃事件の後には日本人人質の事件が
起きるなど、イスラム過激派による事件が続いて
います。

過激主義によるテロを世界的規模で広めたのが
国際テロ組織アルカイダ
その起源は、ソ連軍のアフガニスタン侵攻(79~
89年)
にさかのぼります。






無神論の共産主義国の軍事侵攻に怒った
アラブ諸国の若者たちが義勇兵
として
アフガン入り。米CIAやサウジ王室の支援
受けます。

ソ連軍が撤退を発表後アルカイダが創設され、
タリバーンとの関係を深め、2001年米国同時
多発テロ
を引き起こしました。

2003年からのイラク戦争で米軍がイラクに
侵攻
すると、イスラム教徒の反米意識が増幅。
過激主義が広まる土壌
が生まれたといいます。
中東では、昨年からイラクとシリアで活動する
過激組織「イスラム国」が勢力を伸長す
る一方で、
エジプトのムスリム同胞団の弱体化が進むなど、
比較的穏健なイスラム勢力の存在感喪失が
顕著になっているそうです。

中東全体が流動化する中で、誰が利を得て、
誰が悲哀に遭遇するのか?

「アラブの春」に脅威を覚えていたのは、
中東諸国の王族たちや、その石油権益、
軍事・経済に諸々つながる欧米の諸機関

でした。

この地域は、石油という世界のエネルギー資源
の宝庫であるという事実
と、これを巡り欧米石油
メジャーや軍事産業、国家の深いつながりと
闇が歴史上にうごめいてきた
ことがわかります。

















30年に及ぶ独裁体制の後、ようやく市民が
ムバラク大統領を退陣に追い込み、自由な選挙
という貴重な一歩
を記したばかりのエジプトは、
2013年、軍のクーデターによってモルシ大統領
を追放


国際社会は、これをクーデターと規定することに
躊躇
解体されたムバラク政権は、そもそも米国が
糸を引く傀儡政権


石油利権をもらえる代わりにイスラエルの防護
になり、湾岸諸国と提携して原油価格を米国
の意向で動かしていた
といわれています。

そして世俗主義を標榜し、イスラム主義を地に
貶めることもムバラクの大事な使命
であったと
いいます。

世界から厳しい批判を受けない
ことにシシ国防省
と国軍は、モルシ政権の基盤であった自由・公正
党とムスリム同胞団を非合法化し、テロ組織
だと
指弾するにいたりました。

ムスリム同胞団はイスラムの義務である、
弱者救済、相互扶助に焦点を当てて市民活動
を続けてきたイスラム主義市民組織


その歴史は古く、エジプトにおける英国の
植民地支配が終焉を迎えた後に結成
されて
以来、幹部の暗殺や投獄などの弾圧を
受けながらも草の根の活動
を続けてきました。



















民衆の教化(もともと教徒である民衆のイスラム
知識を深める)
モスクや病院の建設、貧者救済
という地道
なもので、武装過激派で悪名高い
アルカイダやヒズボラとは性質が違うもの。

その影響はシリアやパレスチナをはじめとする
スンニ派のイスラム諸国に広く
及び、同胞団の
パレスチナ支部であるハマスは武装部隊で
あったのが、現在は穏健化して同国の政権政党
になっています。

ムスリム同胞団という穏健派の退潮は、結果的
に中東地域全体の混迷拡大
をもたらしています。
















エジプト以外でも、14年のチュニジア議会選
で世俗派に敗れた政党アンナハダ(再生)
や、
部族間抗争が続くイエメンで埋没する政党
イスラーハ(改革)
など、2011年の民主化要求
運動「アラブの春」で台頭した政治勢力が逆風

にさらされている状況。

既存の枠組みを「西欧に押しつけられたもの」
として無効を唱え、自らでシャリーアをもとに
「国」という組織を独立させ、欧米中心の資本
主義体制を認めない「イスラム国」


そこに身を投じる人々がシリアやイラクなどの
アラブ地域からのみならず、先進国から集まって
きている現実
も見られます。

しかし、「イスラム国」で分配される給与が
自国にいる時より良い
という経済的理由や、
欧米主導の資本主義社会やそこから生まれた
格差に不満
を持っている、「イスラム国」の理想
に共感
するなど、決して一枚岩ではないよう。



















エルサレムには、セム族の三大宗教の聖地
肩を寄せ合って立っています。

かつてはアラブ人もユダヤ人も互いに干渉をせず
共存していた
といいます。
当時のユダヤ人は、中東・北アフリカに古くから
住むスファルディー系と呼ばれる人々
でした。
 
しかし1948年、欧米の肝煎りで多くのアシュケナジー
系ユダヤ人が入植
し、イスラエルの建国以来、
ユダヤ人とアラブ人は仇敵
になってしまったのです。

パレスチナ問題、民主化運動のゆくえ、アフガニスタン
、イラク、シリアの不安定化
など、中東はますます
混迷の度を深めています。

日本を含めた世界で、人種や国籍、宗教により
過激派とこれを同一視し、差別する言動が起きない
ことを願います。

政治としてのイスラムが現代世界にラディカルな
問いを発しているといえる状況


悲しみの連鎖を生み出す根源の課題が何で
あるのかを知り、これに向き合うことが大切です


善と悪という単純な二元対立という表面的な
ニュース・情報に踊らされることなく、本質を視る
中東のイスラム情勢をみることが必要です。










”人と自然を調和しながら『持続可能な未来』を共創する”